その感覚は、正しいのか|手が鈍る瞬間に起きていること

手は、常に正確とは限らない。むしろ、慣れた瞬間に狂い始める。塗り重ねる中で、抵抗は少しずつ変わる。最初に感じていた引っ掛かりは消え、滑りは均一になり、判断は安定したかのように錯覚する。しかし、その安定こそが危うい。均された感触に意識が引き寄せられた時、わずかな違和感は拾われなくなる。壁も床も、同じように見えて同じではない。湿度、温度、下地の吸い込み、そのすべてが触れた瞬間に変化を与えている。それを感じ取れているかどうかではなく、感じ取ろうとし続けているかどうかで精度は変わる。手の感覚は、使うほどに鋭くなるわけではない。使い慣れたときに、最も鈍る。その瞬間を越えられるかどうか。そこに、仕上がりの分岐点がある。

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