なぜ仕上がりはズレるのか|左官の判断が狂う瞬間

■ 第1章 定義文章

「なぜ仕上がりはズレるのか|左官の判断が狂う瞬間」

仕上がりがズレる原因は、技術不足ではない。むしろ、手は動いている。材料も合っている。道具も間違っていない。それでも、仕上がりは静かにズレていく。その始まりは、ほんのわずかな違和感を見逃した瞬間にある。下地の吸い込み、湿度の変化、鏝に伝わる抵抗。本来なら止まるべきところで、止まらなかった。あるいは、進めるべきところで、迷いが生まれた。左官の仕事は、塗ることではない。素材と下地、環境のすべてを読み取り、どこで止め、どこで押さえるかを決める“判断”である。その判断がわずかに狂ったとき、仕上がりは表面には現れない形でズレ始める。そしてそのズレは、時間とともに質感となり、違和感となって空間に残る。仕上げとは、最後に整える工程ではない。最初の一手で、すでに方向は決まっている。その事実に気づいたとき、左官という仕事の見え方は変わる。

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