名工の鏝|やまさ本焼角鏝一尺 ― 広い面を整える左官の道具

名工の鏝|やまさ本焼角鏝一尺

左官の仕事は、材料だけで決まるものではない。壁や床、什器に生まれる質感は、どの鏝を選ぶかによって大きく変わる。やまさ本焼角鏝一尺。刃長約300mmのこの鏝は、広い面を一気に押さえるための道具である。壁面や床面の仕上げに用いられ、テクスチャを整えながら面の流れをつくる役割を持つ。広い面を扱うためには、鏝の重み、刃先の返り、手に伝わる抵抗を感じ取りながら動かさなければならない。こうした鏝は、機械で量産されるものではない。鋼を鍛え、火を入れ、叩き、焼きを見極めながらつくられる。鍛冶職人の手から生まれた一枚の鋼が、現場で左官の手に渡り、初めて壁として形になる。大阪を拠点とする 内村工業株式会社 は、特殊左官の施工を通じて多くの鏝を使い分けてきた。仕上げの質感は、材料だけでなく、どの鏝を選び、どの角度で動かすかによって決まる。だが、このような鏝を鍛える鍛冶屋は年々少なくなっている。道具は失われてからでは手に入らない。現場で静かに使い続けること。それもまた、左官の仕事のひとつである。

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