失われてからでは遅い。今、使い継がれる名工の鏝

【受け継がれる名品:やまさ(5寸5分〜7寸5分)】

壁に触れる前、左官は鏝を選ぶ。それは道具を選ぶ行為ではなく、その壁とどう向き合うかを決める静かな判断だ。やまさの鏝は、5寸5分から7寸5分まで、わずかな寸法差の中に明確な意味を持つ。中塗りの安定感、仕上げに求められる繊細さ、面積や形状によって変わる力の伝わり方。そのすべてに応えるための、必然としてのサイズ展開である。鏝鍛冶の手仕事が生む刃のしなりは、使い込むほどに左官の癖を覚え、壁の状態を指先のように伝えてくる。押せば応え、止めれば収まる。その感覚は、図面や言葉では共有できない。現場に立ち、素材と向き合い続けた者だけが理解する領域だ。こうした鏝は、量産されるものではない。鍛冶屋の技と時間があって初めて成立する存在であり、一度途絶えれば同じものは二度と生まれない。だからこそ、今も現場で使い続ける意味がある。内村工業株式会社が大切にしてきたのは、道具を飾ることではなく、使い切ることだ。特殊左官とは、材料や意匠以前に、こうした名工の鏝と向き合い続ける姿勢そのものなのかもしれない。

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