理由のない形が、ひとつもない。





一枚の壁を仕上げるとき、最後に信じるのは道具の感触だ。この鏝は、やまさ兼俊による六寸の名品。すでに同じものは手に入らない。だが、その役割は終わっていない。手に伝わる重さ、返り、撫でた瞬間の抵抗。それらが、塗り進めるべきか、止めるべきかを静かに教えてくれる。水鏝として、撫鏝として。壁の表情を均すためではなく、空間の呼吸を整えるために使われる。わずかな角度の違い、力の抜きどころ。その積み重ねが、仕上がりの質を決定づける。良い道具は、使い手の意志を誇張しない。ただ、判断を正確に伝える。内村工業株式会社が向き合ってきた左官は、技術を誇る仕事ではない。先人が残した道具と対話しながら、素材と空間の関係を読み解き、最も自然な地点で手を止める仕事だ。名工の鏝は、その判断を支えるために存在している。古いから価値があるのではない。今も現場で応え続けるから、名品と呼ばれる。


