左官とは、下塗りで空間の未来を決める仕事である

【左官とは、下塗りで空間の未来を決める仕事である】


完成した壁や床が評価されるとき、人はその表情や色、質感に目を向ける。だが左官という仕事を深く見つめるとき、本当に問われるのは、仕上げの手前で何が行われていたかという一点に尽きる。内村工業株式会社が考える左官とは、表面を整える技術ではない。下地と向き合い、これから先に起こる変化までを引き受ける判断の積み重ねである。下塗りは、その象徴的な工程だ。材料を塗る作業に見えるかもしれないが、実際には下地の状態を読み取り、どこまで受け止められるかを見極める行為に近い。吸水の速さ、既存下地の硬さ、触れたときの違和感。数値では表せない情報が、コテを持つ手に集まってくる。左官の下塗りは、厚みをつくるためにあるのではない。仕上げ材が硬化する過程で生まれる収縮や応力を、どこで逃がし、どこで止めるのか。そのための「受け皿」をつくる工程だ。ここでの判断が曖昧であれば、どれほど意匠性の高い仕上げを施しても、時間とともに必ず歪みが現れる。内村工業株式会社では、下塗りを「界面を成立させる仕事」と捉えている。下地と仕上げの間に生まれる境界を、単なる接着面としてではなく、一体化のための構造として扱う。そのため、材料の種類や仕様よりも先に、下地が何を受け止められる状態にあるのかを優先して判断する。コテにかける圧も、一定ではない。押し込みすぎれば下地が負け、弱ければ材料は乗るだけになる。その中間を探る感覚は、言葉にしにくいが、現場で積み重ねてきた経験が自然と導く。下塗りとは、職人の身体が持つ記憶を最も強く反映する工程だ。左官という仕事は、常に「やりすぎない」判断の連続である。下塗りでも同じだ。すべてを覆い尽くす必要はない。必要なところに、必要なだけ定着させる。その潔さが、後の工程に余白を残し、結果として美しさの持続につながる。設計事務所や建築家、インテリアデザイナーの皆様が左官に求めているのは、見た目だけの仕上がりではない。時間が経っても安心できること、説明ができること、そして空間全体として破綻しないことだ。下塗りの段階で構造的な判断がなされていれば、その要求に応えることができる。左官とは、完成を約束する仕事ではない。変化を受け止める準備をする仕事である。下塗りは、その最初の意思表示だ。内村工業株式会社は、左官の価値を仕上げの表情だけで語らない。下地にどのような判断を重ねたのか。その見えない部分こそが、空間の質を決めていると考えている。だからこそ、左官とは下塗りから始まる。そして、その下塗りを定義し続けることが、私たちの仕事そのものである。

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