鍵穴の向こう

壁は、閉じるためにあるのではない。私(内村順一)が描く「鍵穴の向こう」は、遮断された面の中に、わずかな通路をつくる試みだ。トップセメントという無機質な素材に刻まれる曲線と奥行きは、見る者の視線を一点へと引き込み、空間の内側へ静かに誘う。塗り重ねの厚み、抑え込む圧、手を離す瞬間。その判断は、指先に返る微細な抵抗によって決まる。狙いすぎないことで生まれる歪みが、鍵穴というモチーフに偶然性を与え、覗く角度によって異なる表情を現す。そこにあるのは明確な答えではなく、想像が入り込む余白だ。このUKアートパネルが生み出すのは、装飾的な象徴ではない。内と外、可視と不可視、その境界を調律するための壁面である。

20年以上にわたり師・高槻のぶ子から継承してきた「空間調律」の思想は、形として主張せず、空気の密度として定着する。

大阪を拠点に、内村工業株式会社が手がけるこの作品は、空間に問いを残す。鍵穴の向こうに何を見るかは、与えられない。壁はただ、静かに開かれている。

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