床の間に沈む、黒

古民家リノベーションにおいて、床の間の壁面をトップセメント「エボリューション マイクロデッキM」№6ニグロで仕上げた事例。
床の間は、空間の中でも最も視線が集まり、同時に最も「静けさ」が求められる場所である。ニグロの深い黒は、主張するための色ではなく、掛け軸や花、光を受け止めるための背景として機能する。施工では、正面からの視線だけでなく、座ったときの目線、高さによる光の当たり方を身体で確認しながらコテを進めた。均一な黒に整えるのではなく、わずかな塗り跡や粒子の重なりを残すことで、壁は光を吸い込みすぎず、静かな奥行きを持つ。床の間という限られた寸法の中で、面の張りと余白のバランスを見極めることが重要となる。トップセメントは、古民家の時間を消す素材ではない。積み重ねられてきた暮らしの記憶を受け止め、その上に新しい「間」をつくるための左官材である。床の間の壁は、飾るものを引き立て、何も置かれていない時間さえも成立させる。その静けさを支えるのが、この仕上げだ。

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