構造を真似ず、記憶を写す ―― 本実風柱造形仕上げ

本実加工を模すことは、形をなぞる行為ではない。内村工業のデザイン左官による本実風柱造形は、木工の構造を再現するのではなく、人が本実に触れてきた「記憶」を左官で呼び起こす試みである。溝の深さ、立ち上がりの角度、影の溜まり方。そのすべては寸法表ではなく、身体感覚によって決められていく。鏝を入れる順序は決まっていない。柱の高さ、空間の明るさ、隣接する素材との距離関係を見ながら、その場で判断が更新される。溝は均一に見えて、実は微細に揺らいでいる。その揺らぎが、無機質な左官材に「木の気配」を宿らせる。仕上げの段階では、あえて完璧な直線を避ける。わずかな歪み、わずかな面ブレが、時間の層を感じさせるからだ。これは意図的な不完全さではなく、鏝と身体が同期した結果として残る痕跡である。アルチザンの身体知とは、素材を別の素材に偽装する技術ではない。内村工業は、本実風柱という造形を通して、「構造がもつ美意識」を左官の文脈で再解釈する。触れた瞬間、理由は分からなくても、確かに懐かしい。その感覚こそが、この柱の完成形である。

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